半ば常識のようにあちこちのブログで語られている「トラリピの利益幅はATRで決めるべし」という文言。
でも、めがねこはこのATRでトラリピの設定、特に利益幅を決めるということに大きく反対なのです。
ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)というのは一定期間の平均値幅です
ではATRの結果は無意味なのか?なぜこんなにトラリピで使われているのかについて考察していこうと思います。

バックテストはATRよりははるかに精度が高いよ
トラリピにおけるATRの功績

ATRってトラリピの利益幅を決める上で役に立つの?
ATRは利益幅を決めるに一役買っており、その数字が全くの無意味というわけではありません。
トラリピを行う際に、適当に利益幅を決めるよりはATRを参照して決めたほうが利益率があがります。
なぜなら、ATRと最適な利益幅には相関性があるからです
つまり、ATRの数字が大きいということは値動きが大きいということなので、利益幅も広めの方がよいということです。

風が吹けば桶屋が儲かるというのと同じだね

どういうこと?

ATRが大きければ巡り巡って利益幅を広げる方向に力が作用するってこと
はたしてATRをそのまま利益幅に落とし込むのはベストな方法なのか?
ただ、そのATRの使い方にはちょっと疑問を感じてしまいます。
なぜなら、ほとんどの場合ATRで出た数字をそのまま利益幅にしてしまっているからです。
「風が吹いたら桶屋が儲かる」を例にとると、風速5mの風が吹いたから、桶が5個多く売れるはずなんて根拠もなく考えないはずです。
風が風速5mのとき桶が50個儲かった。
3mなら30個だった。
だから4mなら40個のはず。
このように相関性を計るプロセスを得て、風と桶の数を調節しないと意味がありません。
上記の例なら風速が1mあがるごとに桶が10個儲かるという情報が集まってはじめて活用できる指針になるのです。
それなのにATR=利益幅の場合はその情報収集と検証の部分が一切ありません。
まるで風速1mに対して桶が1個多く売れると言うように直接関連していない情報を同じ単位でくっつけているだけに見えてしまうのです。
つまり、ATRと理想の利益幅の関連性がどのくらいあるのかの検証が一切ないのです。
ATRがトラリピの理想の利益幅からはほど遠いという3つの証拠

めがねこがATRを過信しないのは、多方面から見てATRは理想の利益幅からは程遠いと感じるからです。
おもに3つ問題点があります。
- バックテスト結果との大きな相違
- 理想の利益幅の原理に反している
- ATRをチャートの波に当てはめるという構造上の問題
バックテスト結果との大きな相違
バックテストというのは過去の値動きのデータを使って、トラップ幅や利益幅を任意に設定してシュミレーションできるテストのことです。
未来のことはわかりませんがデータを取得した値動きに関してはバックテストの結果が最良の結果になります。
バックテストは取得したデータ内においては確実にトラリピのベストの設定がわかる
もしATRが利益幅を決める上で参考になる情報なら、バックテストと近い結果が出るはずです。
しかし、わたしがバックテストを何百回と行った結果と他ブログで公開されているATRをもとにした設定を見比べると、ベストとされる設定が100pips以上も違うこともめずらしくありません。
たとえ過去のデータとはいえ、確実にベストな設定であるバックテストと、ここまで数字が離れてしまっているATRは本当に参考になるのでしょうか?
さらにバックテストを行っていて気づいたことがあります。
ATRの数字はいつも同じなので利益幅の原理に反している
ATRは取得するTR(1日の値幅)の平均です。
ですから、結果は1つの通貨ペアに対して1つだけです。
たとえばカナダドル円のATRは0.7円のように答えは基本1つだけなのです。
でもこれは理想の利益幅として、とてもおかしなことなのです
ちょっと考えればわかると思いますが、トラップ幅が1pipの時と50pipsのときでは、かなり理想の利益幅はかわってくるはずです。
事実、わたしがバックテストを行った結果でもトラップ幅がせまいほど、理想の利益幅は大きくなる傾向がありました。
つまり、理想の利益幅はトラップ幅によってかなり変動します
それなのにATRは集計期間によってのみ結果に差がでますが、そもそもトラップ幅が1円でも0.01円でもATRの値幅は同じというとても理想の利益幅とは思えない結果しか出ません。
ATRをチャートの波に当てはめるという構造上の問題
最もカン違いされていると思われるのがこの構造上の問題です。
ATRはチャートの波をはかる指標ではありません
ATRは、もともとは単に値動きの激しさを表すテクニカル指標でチャートの波を表す指標ではないのです。
言葉で説明してもピンと来ないと思うので、ここで例をあげます。
次にあげるのはATRが1円(100pips)のチャートです、見比べてみてください。
チャート①

これがトラリピでATRを説明する時などによく使われるチャートです。
1日ごとに値幅が1円ずつ順番にあがったり下がったりしています。
たしかに実際にこういうチャートであればATRと同じ1円に利益幅を設定すれば最大の利益を得ることができるでしょう。
チャート②

こちらのチャートもATRは1円(100pips)です。
7日かけて1円ずつレートが上昇し、7日かけてレートが元の100円まで下落しています。
ATRは「1日の平均値幅」ですから、上がったか下がったかは関係ないのです。
つまり7日上がりっぱなしでも、下がりっぱなしでも、1日の値幅が平均1円ならATRは1円なのです。
もちろん、このチャートでの理想的な利益幅はきっと7円になるはずです。
このようにATRには理想の利益幅を決めるのに必要な情報がかなり欠けているのです。
チャート③

チャートの①②がかなり極端だったのでチャート③はより自然な形のチャートにしました。
もちろん、このチャートのATRも1円(100pips)です。
そして、このチャートの理想の利益幅が1円ではなさそうなことは想像にむずかしくありません。

もう、わかりましたね?
ATRで使われるTR(1日の真の値幅)は絶対値を採用しています。
絶対値ということは上がったか下がったかは考慮されないので、同じATRが1円(100pips)のチャートが複数あれば、性質が大きく違う無数のチャートパターンがありえます。
ATRでトラリピの利益幅を決めることへのさらなる疑問

さて、前の章ではATRで利益幅を決めることについて3つの問題点を指摘しました。
でも、まだあるのです。
チャートのどの波を捉えるのが最高の利益幅なのか?
そもそもチャートには大きな波、小さな波とさまざまな波が積み重なってできています。
ATRで利益幅を決めているブログやホームページをみると、暗黙の了解のように「チャートが1番多く繰り返している波」がベストな設定であるかのごとく書かれています。
そもそも、波が1番多く繰り返される幅が1番利益が出るというのが間違いです。
波が多く繰り返されるというのは決済の頻度を最高にする方法で額を最大にする方法ではありません。

波の繰り返す頻度はモンハンの手数みたいなものだね

手数なら片手剣や双剣が多いよね

でも大剣やハンマーは1発が重いから、どっちがいいとは一概に言えないのと一緒だね
わたしが別のブログ記事で検証したところによると、見た目のチャートの波の数と理想的な利益幅は一致しないという結果が出ました。

そもそも、波がひんぱんに繰り返される幅が1番利益が出るという前提からして間違っているのです。
じゃあバックテストはトラリピでは万能なの?

ここまで読んでくれた方はきっとこう思っていますよね?
「ATRがダメっていうなら、じゃあバックテストは信頼できるの?」って
もちろん、バックテストは過去の指標なので未来のおいてその信頼性はわかりません。
きっと扱っている通貨ペアや、未来の為替の傾向によってもバックテストの信頼性はかわっていくでしょう。
ただし、わたしが検証した一部のデータを見る限りでは、バックテストの信頼性は高いという結果が出ました。

ポジショントークを疑え

わたしが元からATRを信用しないのはもう1つ大きな理由があります。
それは、最初にATRで利益幅を決めるのが適しているという情報を流したのは誰か?ということです。
最初の発信元がもしATRが浸透することによって利益を得ることができる立場であったなら、ATRを鵜呑みにすることはなんともバカらしいことだと思いませんか?
もちろん、それでも発信元が間違っているということにはなりませんが、少なくとも懐疑的に(だけど公平に)検証を行うほうが賢いと思います。
大人の事情もあり、あえて詳しくは書きませんが、情報にはポジショントークというものもあるのだというのは覚えておいた方がよいでしょう。
【結論】ATRの有益度の度合いにはおおいに疑問が残る

トラリピはボラティリティ(値動き)によって利益を得る手法です。
ATRは1日の平均の値動きをはかる指標なので、適当に利益幅を決めるよりはATRを参考にしたほうが利益があがります。
ただATRと理想的な利益幅の関連性については、ほぼ情報がないのが実情です。
つまりなんらかの比例関係にはあるものの、ATRの数字をそのまま使えばいいのか、10倍にして使えばいいのか、はたまた2乗して使えばいいのかすら全くわかっていないのです。
対してバックテストの結果というのは、過去の参照したデータ内においては最高の設定であることが保証されています。
ATRもバックテストも意味のある利益幅を提示してくれるとは思いますが、その有効度には雲泥の差があると感じざるを得ません。
とくにATRにおいては、そもそも直接関係のないテクニカル指標とトラリピの利益幅に正の相関性があったために使っているにすぎません。
どの程度の相関性があるかを吟味していない時点で、風が吹いたから吹かない時より桶屋が儲かるという程度のざっくりした情報しか得られないのです。